サブカル 語る。

サブカルチャーなどについての雑談

「ONE OUTS(ワンナウツ)」という作品と野球賭博について

こんにちは。

世間は清原の薬物に始まり、現在は野球選手の賭博行為と、プロ野球の「黒い話題」で話は持ちきりです。僕は野球についてはそんなに詳しくも好きでもないのでプロ野球ファンたちの嘆きについても「お気の毒に」ぐらいの感想しか持っていませんが、野球+ギャンブルときいて、ある漫画が頭をよぎりました。

 

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ONE OUTS - Wikipedia

 

 ライアーゲームでブレイクした漫画家「甲斐谷忍」さんの出世作で、アニメ化もされています。隔週の雑誌「ビジネスジャンプ(現:グランドジャンプ」で長期連載されていた異色の野球漫画です。物語の主人公は投手の渡久地 東亜(とくち とうあ)。何が異色かっていうとこの人、職業はギャンブラー。沖縄で米軍兵士たちを相手に打者を三振あるいはワンアウトで打ちとれるかどうかを賭け合う賭博野球「ワンナウツ」で499戦無敗を誇るピッチャーでした。ちなみにこの「渡久地」というキャラは福本伸行さんのギャンブル漫画「アカギ」からの影響も大きく、アニメで渡久地を演じたのは、同じくアニメ版アカギで主役を演じた「萩原聖人」だったりします。

 

 物語は90年代後半。日本のプロ野球界で多くの個人タイトルと2度の三冠王に輝き、その実力と高潔な人格から「球界の至宝」との異名を誇る大打者「児島」が自主トレのため沖縄を訪れたところから始まります。児島の属する埼京彩珠リカオンズ」は、万年最下位を争う弱小球団。20年以上プロであり続け、輝かしいタイトルを得ていながらも児島は未だに味わった事の無い「リーグ優勝」を手にするためストイックなトレーニングに汗を流します。

 ある日。児島は自主トレに同行させた二軍の選手が先述した賭け野球「ワンナウツ」で東亜のカモにされたことを知り、激怒。賭け野球など自らのすべてである野球を冒涜する振舞い。断じて許せないと、東亜のいるグラウンドに乗り込んで勝負を挑むものの、東亜は児島の心の隙をつく投球であっさり勝利。野球界の至宝として多くの尊敬を集めてきた自分が、素人に敗れるという屈辱的な結果に納得できない児島はひどく取り乱しますがそんな児島を見て東亜は一蹴。

 

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出典:ONE OUTS(甲斐谷 忍) 集英社

 

「勝負をナメてるよ。」そのひと言で自らの慢心に気づいた児島は東亜を強者と認めただけでなく、優勝を手にできない自分とチームに足りないものを持っている男であると惚れ込んで、プロ野球の世界へと誘います。大打者の児島を破った素人という話で上京してきた東亜でしたが球団のフロントたちはその実力に懐疑的。そこで東亜は前代未聞なプロ契約を提案。

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出典:ONE OUTS(甲斐谷 忍) 集英社

①ワンアウト500万円の報酬を球団は渡久地に払う。

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出典:ONE OUTS(甲斐谷 忍) 集英社

 

②1失点5000万円のペナルティを東亜は支払う。

 球団はその提案をあっさり認め、渡久地はその契約に負けて泣きついてくるか尻尾を巻いて逃げるだろうとほくそ笑んでいました。東亜の武器は時速120km前後のストレート。それを寸分違わぬ所に投げられる抜群の制球力。バッターボックスに入りボールを待っている打者の心理を読む洞察力に、その心理を操るような言動、かけひき。なにより「勝利とは?」という問いに「ドブに落ちた犬をさらに沈めること」と言い切る徹底的な心の強さ。それらを武器に東亜はプロのマウンドで結果を出すことに。二軍の試合で渡久地は打者を全員シャットアウト。一軍のオープン戦ノーヒットノーランを達成。その実力を球団内外に示す結果に。この2試合の報酬で数億円を支払っている球団は渡久地を潰そうと本腰を入れます。 リカオンズのオーナーは契約に条項を追加。

①ベンチの指示には必ず従う。違反した場合は違約金5億円を支払う。
②試合の重要度により契約のレートを変更できる(例えばレートを4倍で1アウト2000万、1失点2億)。
③このワンナウツ契約について口外しない。

そのうえでオーナーはリーグ最強打率を誇るチーム「千葉マリナーズ」との3連戦全試合で、先発登板を渡久地に命じます。渡久地は巧みな投球と心理戦、仲間たちの援護を受けながらも肉体疲弊と引き換えに1戦、2戦を勝利。3戦でオーナーはいよいよ牙を剥きます。1戦、2戦での投球で体力を使い切った渡久地に20倍のレート!

500万×20でワンナウト1億。
5000万×20で1失点10億。

 

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出典:ONE OUTS(甲斐谷 忍) 集英社

 マンガだけに現実離れした金額ですがその常識ハズレな金額の大きさが「どーすんのよ?もう疲れきってて投げられない!勝てるわけないじゃん!」と読者をすっごい引き込みます。それでもって実際に渡久地は相手チームにボコボコ打たれまくって、4回までで16失点。

10億×16=160億円負け。

 こんな絶望的な展開でも、渡久地はなお不敵に笑い続けます。疲労困憊の渡久地を打って打率のアベレージを稼げると相手のマリナーズ打者陣が喜び合っている中、キレ者で後に渡久地最大のライバルになる選手、高見は違和感を抱き続けていました。「今までのゲームであれほど勝利にこだわる渡久地が、こんなにあっさり勝負を投げる筈がない」と。

 そしてそれは高見の想像どおり16失点は渡久地の罠でした。その渡久地のしかけた罠に気づいた高見は大慌てでチームメートに「もう打率を上げるな!この試合を終わらせるんだ!」と絶叫。この日のスタジアム周辺には、夜から大雨警報が出ていたのでした。

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出典:ONE OUTS(甲斐谷 忍) 集英社

 野球のルールでは5回までに試合が成立していないと降雨コールドでゲーム不成立になる。

 

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出典:ONE OUTS(甲斐谷 忍) 集英社 

 相手チームに大量得点させてゲームを引き伸ばしたのは大雨を待っていた時間稼ぎでした。

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出典:ONE OUTS(甲斐谷 忍) 集英社

天気予報では試合会場が大雨になるまで1時間。

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出典:ONE OUTS(甲斐谷 忍) 集英社

 優位に立っていたと思い込んでいたマリナーズゲームを成立させるために焦り、リカオンズは逆にゲームを長引かせるために時間稼ぎ。物語はゲームの勝ち負けから時間の奪い合いとなっていきます。

ん?

 でもちょっと待った。さっきも書いたとおり渡久地はどんな時も勝ちにこだわるギャンブラー。マリナーズとの3連戦を2勝できたことで良しとするのでしょうか? 実はこの降雨コールド作戦もまた罠。ゲームをどうやって長引かせるかを考えているチームメートに渡久地は目的はあくまでも勝利であるときっぱり言います。つまりそれはマリナーズとの間にある16点差をひっくり返して逆転することであり、そのためには最低でもリカオンズが17得点しなくてはなりません。その点差に「いくらなんでも…」という空気が漂っているベンチで渡久地だけは「そう。常識で考えたら不可能。だが逆転不可能というその思い込みの中にこそマーリンズにつけいるスキがある」といって不敵に笑ってみせます。

17得点でマーリンズに勝利するというのも至難だけど、それでは160億ー27億(9回まで27アウト)で133億円の赤字となります。たとえ17対16でリカオンズ勝利でも、渡久地は借金133億を背負う計算になってしまう。ところが、渡久地はその借金を背負わず野球のルールブックにのっとりオーナーから大金をブンどれる作戦があるというのです。その意外な作戦とは何なのかってところで、本日のブログはこれにて。

 この「ワンナウツ契約」。万年最下位球団と東亜にとってどうなるか?興味ある人はぜひこの作品手にとって見てください。

  

 ※野球をテーマに「アカギ」っぽい漫画を目指していたという話があるんだけども、金にものを言わせる金満球団や慢心が目立つ強豪を戦略的な罠や心理戦で追い詰める描写を見ると野球版「ジャイアントキリング」って印象かな。