サブカル 語る。

サブカルチャーなどについての雑談

仮面ライダー「本郷猛」であり続ける男、藤岡弘、を語る

こんにちは。

 

本日からいよいよ公開の映画「仮面ライダー1号」。これは仮面ライダー1号が初めて客演扱いではなく「主役」で出演する物語だそうな。

 

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皆さんご存知のライダー1号はこんな感じ。

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45年の時を経て、進化した1号はこんな感じ。 

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 めっちゃくちゃゴツい。だけどもカッコいい。藤岡弘、さんが本郷猛を演じていた時のエピソードは実に濃くて熱いものが多くありますけども、今回はその中で僕がもっとも好きな話を紹介。

 

 仮面ライダーは放映当時にロケや実演のヒーローショーなどで日本各地を多く回っており、それにあわせて藤岡さんたちはボランティアを実施していました。そのボランティアとは児童施設や小児病棟の慰問。自分が仮面ライダーというヒーローである以上、現実世界でも子ども達のためになにかできる事がないだろうかという思いから始めたものだったそうな。藤岡さんがライダーのスーツを着て病院にいくと、当然の事ながら子どもたちは大喜び。どこに行っても「ライダーだ!」という驚きの声と同時に周囲を囲まれたけども中には長年、自力で歩けなかった子どもが憧れのライダーを見た瞬間に乗っている車椅子を乗り捨てて、歩いて自分に近づいてくるという奇跡を見たこともあったそうです。看護師さんの「私たちが毎日面倒を見ていても歩けなかった子がライダーを観た途端に歩けるようになって悔しい」と、嬉しさと嫉妬が入り交じった泣き顔に困惑させられた思い出についてこの本で語っていました。

 

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 【中古】仮面ライダー 本郷猛の真実

 

 このエピソードはたとえ実際に変身できなくても「本郷猛」は現実にいる。子どもたちに夢や希望を与える大人こそ「本郷猛」であり、誰もが心がけ次第で「本郷猛」になれるんだ、と僕を奮い立たせてくれたりもします。また、この仮面ライダーという番組自体もこういったアツいエピソードには事欠きません。言葉が適切ではないけど元々は「ダメもと」で始まったこの作品が大人気番組というだけでなく、日本を代表する特撮作品に成長するまでの歴史は「子どもたちの夢」や怪我のため「役者になる夢を失いかけていた藤岡さんの未来」「撮影現場で働いているスタッフたちの絆」。そういったものを守ろうと足掻いた男たちの歴史ともいえるのです。

 

 皆さんもご存知でしょうが、そもそも仮面ライダーは1号ひとりだけの設定であり、仲間のライダー出現や続編の制作予定もなかった作品でした。作品のターニングポイントになった事件は「撮影中に起こった藤岡弘、さんの負傷」でしょう。ロケ中に乗っていたバイクの転倒で、藤岡さんは全治数ヶ月の負傷。もう撮影云々の話ではなく、ケガが直っても、もとどおりに歩けるかさえ分からない。そこで、番組のプロデューサーを務めていた東映の平山亨さんは「1号が海外のショッカー支部を追って日本を離れたので、本郷猛が日本に戻るまでライダー2号の一文字隼人が本郷猛の代わりに戦う」という後づけ設定を作り、藤岡さんの復帰まで2号を中継ぎ主演ライダーにするというアイディアを考えました。2号ライダーを務めた佐々木剛さんはそのオファーを受けて「藤岡君の怪我をいいことに、主役を奪うみたいでイヤだ!」と固辞。そんな佐々木さんに、平山さんも「どうか藤岡を助けるため!!」と頼み込んだそうです。

 普通だったら主人公をそこで交代させたり番組を打ち切るのが常識だけど、平山さんは「本郷猛」復帰にこだわった。その理由はファンの夢とスタッフを守るためでした。さっき紹介させていただいた本には藤岡さんと平山さんとの手紙のやりとりがあります。それによると平山プロデューサーは「テロップで主人公の交代を伝えて番組継続なんてやっても子どもたちの夢を壊すだけである。大人の都合で子どもの夢をぶっ壊して、現実に引き戻させるマネをしてなにが『仮面ライダー』だ!」と語り、2号ライダーの中継ぎ出演を認めさせたそうな。また、主人公の本郷猛を守ることはスタッフを守ることにもつながるものだったとも語っています。

 

 この仮面ライダーの制作スタッフで中心だったのはフリーの監督やカメラマン。各映画会社で映画制作に携わっていたものの、諸事情で干されたため、不本意でテレビ番組の制作を行っていた人たちでした。映像業界では映画が格上であって、テレビは映画の下という風潮があったため、ほとんどのスタッフは降格組にいたという実情がありました。このため多くのスタッフは「絶対にこの仮面ライダーを成功させて、映画制作から俺を追い出した奴らに目にモノ見せてやる!」と野心溢れる人も多く、撮影現場全体も鬼気迫る緊張感が常に漂っていたそうです。

 

 だけど優秀な技術や熱意を持っていても番組が打ち切りになったらそれまで。ケガで主人公の交代を行ったらスタッフたちも「主役でさえも交代させられるなら、俺たちだって何かあったらどうなるか」と考える。お互いに心を通わせれば自分の期待を超える仕事をやってのける真のプロフェッショナルたちが、藤岡の不在を守ろうと考えて働いてくれる。そんな人たちの人情を絶対に裏切ったらいけないんだ」との思いもあっての2号誕生だったのです。

 結果論ではあるけれど平山さんのアイデアは大当たり。バイクに乗れなかった佐々木さんのためにライダーはベルトの風車に風を受けて変身という設定を変更。それがあのおなじみの「変身」ポーズの誕生に繋がりました。これも子どもたちにも大ウケで仮面ライダーの人気はうなぎのぼり。最高視聴率30%を超える大ヒットになったのでした。

 

NHKプロジェクトXが続いていたら、取り上げて欲しかった。

 

 70歳になった本郷猛の見せる物語も気になるけどそろそろ僕らも将来のグチを語るのをやめ、次世代のためになろうよ「本郷猛」に。

  

※リニューアルされた1号もいいけどやっぱり従来のスタイルはシンプルでかっこいいんだよな。