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漫画『響』を読んだ。「つまらないからこそ売れた作品」が率直な感想

こんにちは。

 

 本日のテーマは女子高生小説家を主人公にした漫画「響~小説家になる方法~」。

 

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響ってどんな物語? 

 隔週発売の漫画雑誌「ビッグコミックスペリオール」連載中で、僕もコンビニに立ち寄った時など、たまにページをめくる作品です。マンガ大賞2017で大賞受賞後、今週の9/14(金)には実写映画が公開するなど多くのメディアで話題になっている作品ながらそこまで熟読していないため、いい機会だと思って近所のコンビニで廉価版の買って読んだので、今回はその感想について書きます。

 

 物語はある出版社の文芸誌編集部からスタート。出版不況で年々下がる文芸、小説の売り上げにため息をつく先輩社員たちが現状を散々愚痴った後「応募規定はインターネットによる文書データのみ。募集要項を守らない時点で価値なし」と、ゴミ箱に放り投げられた新人賞応募作品を若手の女性編集者「花井」が手に取ったことで始まります。原稿用紙に刻まれた文字は花井が感心するほど達筆だったが本名かペンネームかも分からない「鮎食響(あくいひびき)」という名前以外は住所、職業、電話番号、年齢など作者の情報は一切なし。だが、その原稿用紙の漂わせる雰囲気から花井は作品を熟読。そしてその書き手不明の作品「お伽の庭」は編集部内でも話題になっていき、この作品こそ文芸の時代再来を担う小説だ!と惚れ込んだ花井は作者の情報集めと、応募規定に外れた「お伽の庭」をなんとか世に出そうと決意します。

 その頃。入学式後のある都立高校では文芸部入部を決めた少女が部室に屯する不良といざこざの真っ最中。胸倉を掴まれて凄まれても不敵に笑い、制服のネクタイをつかむ不良の指をへし折った後、ボールペンを構えて上級生の目を狙う視線に少女の異常性を感じとった文芸部員と不良たちは撤退します。この異常な雰囲気の少女こそ文壇デビューを今、まさに果たそうとしている「鮎食響」だったのでした。

 

 という具合に、ざっくりと物語のプロローグを紹介させてもらいました。この高校一年生の少女「響」の性格の異常性が引き起こすトラブルが物語のポイントなんだけどもこの響、まぁよく人を殴る、蹴る、関節を極めてへし折るという一人総合格闘技野郎。しかも。脛で鼻を狙うなんて漫画でもエグいだろ。プロでもそんなのやんねーよ!

 

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出典:響~小説家になる方法~ (柳本光晴)_小学館

 

 こんな具合に、納得できないことや自分の感性で「美しくない」ものはたとえ著名な作家でもキックを顔面にかましたり、政治家でも殴ったり。そういう異常性を天才性と読者に読み替えさせることで成立する作品のため読者によっては「響=天才」であるというこの漫画の大前提について、どこが?と疑問に思う人もたぶん多くいるでしょう。

 

「響」という作品の持つ、背中合わせのウリ / 欠点

 実際、花井が天才と絶賛した「お伽の庭」についての描写もほとんどなく、その小説の凄さの根拠になるものが「お伽の庭を読んだ人たちの表情や感想」だけなので小説家としての技量の天才性を示せない。従って響のキャラは勢いや瞬発力に頼った「動的エキセントリック」なものになり、それを天才ゆえの破天荒さと読者に思わせることで作品を成立させているというのがこの作品の人気の秘密でもあり欠点でもあります。確かに、響の勢いある行動は面白い。だけどその面白さはどこかで息切れする。そんな危うさがこの作品には全体的に漂っている印象。変わった雰囲気の女子高生がいきなり文壇デビューという設定が薄く説得力もない。響の文芸における才能の裏付けがないからこそ、キャラ作りを派手なものにしなくてはいけないという背景がこのマンガを支えており、逆説的だけど物語のつまらなさというか、設定の陳腐さや物語の魅力のなさがキャラの行動の派手さを際立たせ、読者に爽快感やおもしろさを与えているといえます。そのため響の行動の刺激に慣れた時にはおそらく、読者に飽きられるでしょう。いっておきますが、別に響をディスってるわけじゃありませんよ。このようなキャラの即興的な勢いだけで読者を楽しませられるのも漫画の魅力だというのもまた事実です。

 

 

www.hibiki-the-movie.jp

 

対極の天才を描いた作品 

 この作品についてのブログを書いててふと思ったんだけど、2017年度のマンガ大賞受賞作がこの「響」だったなら、2018年度マンガ大賞にはこの作品と対極にある「アクタージュ-act-age-」という作品が案外受賞するかもしれません。

 

アクタージュ act-age - Wikipedia

 

 このブログでも以前紹介したこの作品は、高校生ながら家庭環境によって子どもの頃から孤独を感じていた少女「夜凪景(よなぎけい)」が自宅の押し入れにあった大量の名画ビデオを繰り返し見続けているうちに現実と物語の境界を自由に歩けるような危うい感性を身に着けた。その特異な才能を若手監督に発掘されて、景は女優の道を進んでいく。という漫画。連載当初はあんまり注目されていなかった印象ですが地道に読者の人気も集め、現在は掲載雑誌の「週刊少年ジャンプ」でも掲載順が上位になることも少なくありません。

※最近作者はananの取材も受けているそうな。

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 この「景」という少女も自分と他人や虚構世界との境界の無さに起因する感性からトラブルを起こしまくっているんだけど(そういやこの子もオーディションで飛び蹴りをやったな)、その中でもロケで出会った俳優の素顔や脚本の解釈、監督の指示などを通じて自分なりに「演技」とは何かを考えて作品や共演者に対して、真摯な態度で演技の技術を向上させていくというのは景の持つエキセントリックさを飼いならすプロセスであるともいえ、天才という存在についての表現はこちらの方が勝ってる印象でした。ただ「響」ほどの勢いや瞬発力はないため読後の爽快感については響の方が上。ゆえに瞬間風速的な大ヒットはないかもしれないけど、息の長い持続力のあるヒット作になると思います。

 

 エキセントリックな行動や言動で社会を引っ掻き回しながら、小説という静かな世界で作品を書き続ける響。一方、大人しめで物静かな風貌や性格の奥底に秘められたエキセントリックな内面を「演技」という動的な表現に昇華させる景。このタイプの異なる二人の天才の物語。暇だったらぜひ読み比べてみて下さい。

 

csbs.shogakukan.co.jp

 

www.shonenjump.com

 

 

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※小説をテーマにした漫画を小説で読むっていうのも逆説的。後、コンビニ版の下巻も最近読んだけど、たぶんこの恋人気取りの響の幼なじみが響への想いを爆発させ発狂。そんでもって響絡みのとんでもない事件を起こすとかいう展開になっていくんじゃないかと思う。