こんにちは
最近は昭和〜平成の初期頃に人気を誇っていたマンガの続編が20年以上の時を経て発表されるという「続編連載」がどの雑誌でも目立つようになってきました。この傾向には正直言って食傷気味ではあったけど、今日にいたるまで20数年間「MASTER(マスター)キートンという漫画を愛してやまない僕にとってはこの作品のリバイバルは実際のところ、嬉しい話題。リバイバル作品バンザーイ!と手のひらを返す自分に呆れてもいます。
このリバイバル作「MASTER(マスター)キートンReマスター」連載スタート時に僕はさっそくビッグコミックオリジナルを購入。そこには本編連載時の20年前には40前後(おそらく)ながら童顔だった主人公キートンが白髪混じりになり、老眼鏡を手にしながらルーマニアのブカレスト大学で考古学の教鞭を執っている初老の姿が。高校生の頃に夢中になっていた自分もふと気づいたら「MASTER(マスター)キートン」時代のキートンとほぼ変わらぬ年齢となった事にただただ驚き、しみじみさせられました。
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この物語はオックスフォード大学出身で考古学を学び、思うところあって英国軍入隊後にエリート部隊「SAS(英国特殊空挺部隊)」に所属した異色の経歴を持つ保険調査員、太一・平賀・キートン(日英のハーフ)が各国で繰り広げるトラブルを軍隊経験や考古学で得た知識を武器に解決を図っていくのが最大の魅力。物語でキートンはヨーロッパの文明の源泉がドナウ川流域にあると考え、調査員を続けると同時にドナウ川流域の発掘を夢見ていました。今回の副題はキートン最終巻のタイトル「夢を掘る人」からつけましたが20数年を経ても未だに考古学を学び続け、夢を堀り続けるその姿はもう中年となった自分を、奮い立たせてくれます。ぜひ皆さんもご一読を。
※20~25年前の話なので、物語は湾岸戦争や冷戦終結など世界の激動が大きく関わっている傾向が強いのもこの漫画の特徴。日本ではさほど知られていなかった東側諸国の文化やお国事情などもかんたんに紹介されたりもしているので「20世紀の雑学漫画」としても楽しめます。僕は「MONSTER」より「キートン」だな。ついでにこちらも紹介。
キートン動物記
これはビッグコミックオリジナルで「MASTER(マスター)キートン」連載時、「ビッグコミックオリジナル増刊号」で不定期連載された短編集。シートン動物記をもじった題名どおりに、人間と動物との関係をめぐって発生する多くのトラブルをキートンが雑学を交えて解決を試みていく構成になっています。コレはたぶん、楽天で検索しても出てこないのであんまり知られてないかも。古本サイトでも在庫なしが圧倒的だったもんなぁ。
過去の作品を振り返ってしみじみするのはこのへんにして、本題。僕も先日、この新作「MASTER(マスター)キートンReマスター」の単行本を探し周りました。地元で大手となるオリオン書房などをのぞいて見たけど想像どおり売り切れ続出。たまたまこの日、休日出勤で会社を出たのが午後8時だったのでどこの店舗も閉店間際。自宅最寄駅近くのコンビニに表紙が通常の「通常版」はあったけど、カラーページ印刷も再現された「豪華版」がありません。こうなってくるとどうしても「豪華版」が欲しくなるのが人情。キートンの豪華版をがありそうな本屋さんないかな?と考えていたら自宅から歩いて2、3分のところに深夜12時まで営業の小さな本屋さんがあるのを思い出したのであわてて駆け込んだら豪華版あった!在庫2冊のうち、1冊を手にとってレジに走り、この漫画の魅力とファンがどれだけこの作品の続編を待っていたかを熱く語ってしまいました。おじさんはにこやかに「よかったですねぇ」と微笑んでいたけど僕の勢いに若干引いていただろうな。ごめんなさい、おじさん。
この「MASTERキートンReマスター」に収録されている全8本のエピソードについては1本ごとに詳細な感想を書きたいけれど、本日はサッカー好きの自分にとって最も印象深かったのQUEST2「親愛なるアントニヤヘ」という物語について。
MASTERキートンReマスター |
このエピソードはキートンが、クロアチア共和国の街「ドゥブロヴニク」にいるロベルトというマフィアの幹部を首都ザグレブまで護衛するお話です。作中でサッカー好きながらサッカー賭博に絡み、仲間から追われていたロベルトは民族が共存しあい、宗派の違いからクリスマスが2度あったというかつてのユーゴ時代を「おとぎ話のみたいな国だった」とかすかな笑みを浮かべて思い出しながら、クロアチア共和国や旧ユーゴ出身の名選手を複数列挙。そしてユーゴで発生した欧州サッカー史に残る事件に自分が関わっていたという意外で重い過去をキートンに語り始めるのでした。
・世界最高のMFといわれているルカ・モドリッチ
・直接フリーキックだけでハットトリック(1試合3得点)を達成した「偉大なる左足」こと名テクニシャンのシニシャ・ミハイロヴィチ
・ACミランで背番号10を背負っていたズボニミール・ボバン
この他、物語に出てきませんがクロアチアと旧ユーゴスラビアには現在に至るまで名選手がたくさん。
・90年代における最高の選手、ロベルト・バッジョにジェニオ(天才)といわしめたデヤン・サビチェビッチ(モンテネグロ)
・Jリーグで名古屋グランパス在籍。「ピクシー」の愛称で愛されたドラガン・ストイコビッチ(セルビア)
横浜F・マリノスvs名古屋グランパス・ストイコビッチ監督ボレーシュート - YouTube
※サイドへ蹴りだされてきたボールを革靴でダイレクトシュートでゴールしちゃったピクシーの名古屋グランパス監督時代。
・イタリアのインテルで、長友の先輩だったデヤン・スタンコビッチ(セルビア)
などなど。まだたくさん挙げたいけどもこの辺で。上述したボバン、ストイコビッチ、サビチェビッチが在籍した旧ユーゴスラビア代表チームはその当時「東欧のブラジル」といわれるほどテクニックに優れた選手が多くいたために90年代前半、ワールドカップやEUROなどの国際大会では常に優勝候補に挙げられる強国でした。ちなみに当時、ユーゴスラビア代表監督を務めていたのは「哲学者」みたいな言説で日本で愛されたイビチャ・オシム。ただ残念ながらこの旧ユーゴ代表のチームは91年から始まったユーゴ紛争のため、消滅。当時のサッカーファンの失望は相当なものだったことでしょう。
※旧ユーゴチームについては、以下を参照
旧ユーゴは分裂後、現在以下6ヶ国になっています。
クロアチア共和国
セルビア共和国
スロベニア共和国
モンテネグロ
マケドニア共和国
ボスニア・ヘルツェゴビナ
ユーゴ崩壊後のワールドカップ出場国を調べるとこんな結果でした。
98年 クロアチア、セルビア・モンテネグロ連合
02年 クロアチア、スロベニア
06年 クロアチア、セルビア・モンテネグロ
10年 スロベニア、セルビア(モンテネグロとは分離)
14年 クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ
分裂後も急ユーゴのなかから2ヶ国は強豪の集うヨーロッパ予選を勝ち抜いているのをみると、旧ユーゴの時代はどんだけ強かったんだろう?と思います。もしも、ユーゴスラビアが分裂していなかったら98年から2014年までのワールドカップで優勝を手にしていたかもしれない。「民族」「国家」みたいなイデオロギーに翻弄されたってロクなことなどない。この「親愛なるアントニヤヘ」は架空ながらそんなことを考えさせるエピソードでした。