サブカル 語る。

サブカルチャーなどについての雑談

フェイクニュースとは何か?について考えてみた。

こんにちは

 

 本日のテーマは「走れメロス」。文豪、太宰治の名作小説です。物語は皆さんも知ってのとおり、暴君に対して逆らったメロスが処刑される事になった際に、 「俺の処刑の日は、妹の結婚式があるので刑の執行をちょっとだけ待ってくんね?代わりに俺の親友を置いてくので、俺が戻らなかったらそいつを処刑ってことで。ぜってーに戻るから大丈夫!!」みたいなノリで親友のセリヌンティウスを人質に結婚式に出席した後、走って友の元に戻るまでを描く名作。だけども、この名作に異議を唱えた中学生が!! 

 

 

タラタラ歩くな!いい加減走れメロス

commonpost.info

  

nlab.itmedia.co.jp

 中学生の村田一真くんが昨年に一般財団法人 理数教育研究所開催の「算数・数学の自由研究」で「メロスの全力を検証」という論文を発表。その論文によると、メロスは走るどころか往路は単なる徒歩。復路も早歩き程度の速度ということでした。

 

 上記リンクによると、物語の中でメロスは妹の結婚式に出席するために3日間の猶予を王からもらって初日・最終日を使って10里の道を往復とありますが、この10里という距離単位をキロメートルで換算すると 10里 =(約39キロ)。原作を読むといかにも長距離というイメージを抱きそうですけど実際にはフルマラソンの距離よりも短かい!この論文で村田君はメロスの走った街の風景やその周囲の人々の描写から拠点ごとの到達時間を算出して平均的な移動速度を、時速4km以下と結論づけています。

※この詳細については、興味があったら上記をどうぞ。

 

 論文については「見事」という意見だけでなく、小説というフィクションによる感動を台無しにさせるものである。という意見もあったことでしょう。だけど思い込みによる思考の停止によりも物事に対する「批評精神」ともいうべきものをなかなか発揮できない頭の固いおじさんになった僕にはとても新鮮でした。

 

根拠のない思い込みほど怖いものはない

 1997年に、アメリカのアイダホ州である中学生が「ジハイドロジェン・モノキサイド」という化学物質の特徴を調べ、論文で大人達にこの物質の是非を問いかけました。さて、このジハイドロジェン・モノキサイド。日本語訳でいうと「一酸化ニ水素」。その物質の特徴(メリット・デメリット)については以下の とおりになります。

 

酸性雨を降らせる原因ともなる
②地形の侵食を引き起こす
③金属を錆びさせる
④ジャンクフードの添加物になる
⑤植物の育成を促進させる
⑥人体にも含まれている

 

 この化学物質は人類にとって有益かどうか?「一酸化ニ水素」という日本語表記がヒントではありますが、そもそもこの物質は何なのか?

答えはH2O=水。列挙した特徴を見ていくとそれは明らかです。

酸性雨を降らせる原因になる

そりゃ確かに、雨に酸が含まれれば酸性雨になりますわな。

②地形の侵食を引き起こす

雨が地面を柔らかくする事で、土砂崩れなどを引き起こすこともある。

③金属を錆びさせる

水は金属の表面を濡らして酸化させ、錆びさせる。

④ジャンクフードの添加物になる

ジャンクフード(だけでなく)殆どの食品に含まれる。

⑤植物の育成を促進させる

植物を育てるため不可欠。

⑥人体にも含まれている

言うまでもなく人体を構成する大きな要素である。

 

 上記の特徴は普通に考えて「当たり前」という話をもっともらしく書くことで大人の思考を混乱させるものでした。だけど、この実験で多くの大人たちはその「当たり前」に気づけなかった。この中学生が水を「ジハイドロジェン・モノキサイド」と名づけ、化学物質という形でそれっぽく周囲に説明して、否定的で感情的な性質を述べた結果

 

50人中で43人が否
6人が可否の回答を留保
この物質が単なる水である事を見抜けたのはたった1人だったのです。

 

e-zatugaku.com

 

 もっとも、この当時はインターネットなども現在ほど発達していなかったため、情報を判断する材料も乏しかっただっただろうという事も考えなくてはいけないでしょう。だけど、たとえ現在同じ実験を行ったとしても結果はさほど変わらないんじゃないか?とも思う。そんな事をこの話題から考えさせられました。

 

togetter.com

 

ネットにこそ真実や事実がある?冗談だろ! 

 ただ、これらはまだ笑い話や知的好奇心をくすぐる興味深い話題として扱える平和でのん気なニュースだからいい。だけどこの数年で、普通の人々がもっともらしいウソに踊らされたことで民族や人種差別を煽るような事件が多発しているのは全く笑えない。

 

 数日前にNHKクローズアップ現代で「フェイクニュース」を取り上げているのを見ました。フェイクニュースとは文字どおり「ウソ」の話題。実際と異なる情報がメディアやSNSなどを通じて大勢の人たちに発信し続けられていくことで、その情報が事実を凌駕してあたかも真実になりかわったようになる現象を説明する際に、よく使います。

www.newsweekjapan.jp

 

ネットの引き起こした差別騒動 

 番組の中ではドイツの地方新聞で記者を務めているペーター・バンダーマンさんの体験が紹介されました。ペーターさんの地元では大晦日、広場で新年を祝おうと1000人もの人が集って爆竹を鳴らしたり大騒ぎしていました。だけどもその火でボヤ騒ぎが発生。集まり自体が毎年恒例のものであり、ボヤも10分前後で収まったため、大騒ぎになるものでもなかった。ところがそのボヤの騒ぎを伝えたペーターさんの文章と動画がオーストリアのニュースサイトではまるで「アラブの人が放火騒ぎを起こした」みたいな話にされて拡散されたというのです。

 

現実を凌駕する、ネットに漂うウソ  

 最初、ペーターさんはよくある移民排斥の扇情記事には困ったものと思って呆れていました。ところが、その書き換えられた報道は本人さえ思わぬ事態に。数日後にはイギリスで「1000人もの暴徒が警察を襲撃。放火騒ぎも発生」などといったタイトルになってさらに文章は拡散。イスラム系の移民がテロの組織に関わっていると思わせるでたらめなものになり、ペーターさんの文章はイスラム系の人々への差別を煽り立てるものとして30ヶ国近く、5万人の人々に読まれることとなりました。そして、ペーターさんはこの事態を看過できないものとして、文章の発信者としての責任を果たすべく、記事が捏造されたものであることを反論。正確な情報を伝えれば誤解も解けると思っていたけど、この反論にあった反応はたった500件。誤って伝わった情報の読者、5万件の1/100程度に届くのが精一杯でした。ペーターさんはツイッターでこう呟きました。

「事実がウソに塗り替えられてしまう。どうすればいいのか、誰か教えて下さい。」

 

www.nhk.or.jp

 

  この話は日本でも他人ごとではありません。先日も「韓国」を題材にしたあるニュースサイトがヒドいデマを垂れ流しているものであると判明。

www.buzzfeed.com

 そのニュースサイトの運営者はたいして悪びれずに「ヘイト記事は拡散する」「そういった(韓国が憎い)という情報を望んでいる人もいる」と他人ごとみたく語っているので僕もかなり頭にきていたんだけど、このデマを広げたのは僕らの世代にも大勢いることでしょう。だけど僕らの世代はある事件をきっかけにして根拠のない情報を広げることの恐ろしさをあらためて学ぶことができます。

 

ネットの無い時代に駆け巡った、高橋名人逮捕のウソ

 その事件とは高橋名人の逮捕」。1980年代にゲームメーカーの(旧)ハドソンがプロデュースした「1秒間16連射」が特技のファミコンマスター高橋名人小学館の「コロコロコミック」などをつうじて小学生の心をガッチリ掴み、アニメ化や歌手活動、テレビ東京で「高橋名人のおもしろランド」という冠番組を持つまでに至ったその人気は、ある情報をきっかけに地に落ちます。その情報とは「1秒間16連射ファミコンのコントローラーの連射ボタンにバネを仕込んでいたからできるインチキであって、そのインチキがバレて、警察に逮捕された」とかいう荒唐無稽なものでした。

 

 ところがこの情報がインターネットもない時代だったのにも関わらず、全国の子どもたちに驚くべき早さで広がったのです。もちろん、この情報は真っ赤なウソ。この情報の真相は東京都内の警察署で一日警察署長を務めるために、警察署へ足を運んだ高橋名人を偶然見た人達を起点にした噂が別の話になって広がったというものみたいでした。噂が出た翌月のコロコロコミックでは高橋名人本人もその話に触れており、高橋名人を主人公とする漫画のネタにもなっていましたね。そういや。


   当時の僕はご多分にもれず高橋名人に憧れる小学生の一人ではあったけど、その話は「ヘンだな」と思っていました。名人逮捕の噂が広がった週にも高橋名人が司会の番組は普通通り放映されていたし、なにより新聞やどのテレビもその話題をまったく報道していない。たかがファミコン名人であってもこれだけメディアに露出している人物だったら絶対報道されるはずだという確信からこの話は嘘っぽいと考え、その話題には積極的に乗らなかったのです。また、同時にうわさ話をする同級生達の表情にもなんとなくひっかかるものがありました。

 

 同級生は「俺達をダマした」と怒っているのに高橋名人逮捕の話題をどこか楽しそうに語っているように思えて仕方なかったのです。子どものアイドルが警察に逮捕される。ふつうに考えるとそれは悲しい話にも思えますけれど勢いの盛んな人気者がいきなりの苦境に立たされる姿に自分がまるで強者になったような快感を覚える、後ろ暗い心理もあったんじゃないのか。だから正直なところ、みんなは16連射が事実なのか否か実際はどうでもよく、自分たちが堂々と貶めることのできる標的づくりのため高橋名人を都合よく利用しただけだったのでしょう。

 

ウソっぽい情報なのかどうかを見分けるポイント   

 結局のところ、何が事実で何が誤りかは流れてきた情報だけでは簡単に判断できません。ただ、「ウソっぽい情報」に気をつけるためのポイントはある。それはその情報の発信者の表情と口調です。発信者の表情や口調、文体が他人を貶める下卑たものになってはいないか。その口から発する情報は口汚くないか。

 

 フェイクなニュースは人々に事実を伝えることより情報を広める事、興味を引く事、そして他人を貶めて愉悦に浸ろうとする事が目的になっているためか、語り口や文章が扇情的で挑発的、さらに攻撃的で実直には程遠い下品さに溢れています。だからなんでこんな番組を信じる人がいるのか僕にはまったく理解できなくて困惑させられます。

 

www.dhctheater.com

 

  あなたに「ねぇ知ってる?」と語りかけてくる情報がどこか扇情的、攻撃的で特定の団体や個人を中傷する類のものだったら要注意!!そしてそれらを見たり聞いたりして、心地よさや愉快さを感じていたら、あなたはフェイクニュース発信の片棒を担ぐ手前にいるのかも知れません。