サブカル 語る。

サブカルチャーなどについての雑談

「いちごの学校(きづきあきら+サトウナンキ)」はもっと評価されるべき

こんにちは。

 本日のブログ、本音を言うとあまり書きたくないテーマです。だけどこの数日間に、こういった報道がされているのをツイッターやニュースなど多くのメディアで見ていて書きたくはないけれど、書いておくべきだと思いました。

 

 

文字どおり「女性を食物」にする日本という社会

news.livedoor.com

 

news.livedoor.com

 

 保護者やら、社会人としての先輩やら、政治家やらがこぞって、未成年や社会に出ていない女性を性的対象に扱う事件の多さに頭を抱えたくなる今日、この頃。先日ツイッターで「両者の合意があるなら未成年でも親子でもいいんじゃないの?」なんていう、エロゲーや巷に溢れるメディアのエロ描写などによって頭の回路が狂った輩のつぶやきなどを見て「お前はモニター越しに萌え系エロイラストを見ながら、今後使うこともないだろう汚い男根でも握ってろ」と、いいたくなりました。

 そんな中、紹介したいのがこの漫画。

 

f:id:arrow1953:20190416011120j:plain

 

妊娠させた男性が主体の物語 

 白泉社青年漫画誌「ヤングアニマル」などで連載を手がけている「きづきあきら+サトウナンキ」さんの作品です。この作品は嘗て高校の国語教諭だった「大宮壱吾」、その妻であり教え子だった「くるみ」と愛娘の赤ちゃん「あおい」の生活を綴ったファミリーもの。なんだけど物語は母親になったくるみでなく、父であり教え子を妊娠させた「壱吾」の目線を中心に語られていきます。コレってすごく珍しいでしょ。

 

 ムダのない的確な授業で生徒たちや周囲の教員からの評判や信頼も上々。教員が天職だと思ってノッていた壱吾は人間社会の倫理などについて独特の価値観を持っており、それを自分に問いかけてくるくるみに興味を抱き、踏み込んだら引き返せなくなるのを承知で深みにはまっていきます。人目を憚るように二人は交際を続けた結果、くるみは妊娠。それを機に壱吾は教員の職を辞めて結婚。パソコンの量販店に再就職を果たしてくるみ、アオイとの生活をスタートさせます。

 

 くるみの元同級生の来訪ほか娘を連れて実家帰り、風邪をひいたくるみの看病など、楽しくて賑やかな家族イベントの最中に壱吾の頭を過る回想。くるみの笑顔を遠巻きに壱吾は常に「自らの責任」に苦悩するのです。

 

 教員は懲戒免職でなく、あくまで自主的な退職の扱い。自分の行為の軽率さを社会的に罰せられることを望んでいた壱吾に校長は「教員としてはあるまじき、恥ずべき行為だからこそ。あってはならないことだから公的に罰することはできない。社会的制裁というならPTA総会、教育委員会ヒアリングなどで生徒のプライバシーを公にしなくてはいけない。そのプライバシー公表後、失った信頼を取り戻すために残った教員は全力で取り組まなければいけなくなる。社会的制裁なんていうのは単なる自己満足」と言い、信頼していたベテラン教員にも突き放される。熟慮のうえにくるみの希望に応えるべく結婚、出産を選んでも周囲はそれを「責任」とは認めてくれません。

 

 壱吾の実父からは「相手を幸せにしたからといって教師の道義的責任を果たせると思うな!お前の責任とは、誰に対するどんなものか考えろ」とこれまた答えを拒否されて、さらには出産を控えて陣痛に苦しむくるみが思わず発する「うち(実家)に戻って元の生活に戻りたい」という弱音に壱吾は未成年の教え子を妊娠させるような行為は社会的に許される、許されない云々の話じゃなく前途のある若者の自己決定権を奪いかねないものであること。さらにくるみを妊娠させたことは、身も蓋もない言い方をすると子どもの可能性を育てる立場にある大人がその未来を奪うものだったということをこの機にやっと理解するのです。そしてその責任を巡る問い、苦悩は娘の誕生後も続いていく。たとえ自分たちが家族としての幸せを手にしたとしても。

 

あまりにも苦いエピローグ 

 物語のエピローグは、そんな紆余曲折を乗り越えた家族三人が手をつないで帰宅。全編に重い空気が漂っていただけに救われる気持ちになるんですけども、この作者は実に根性が曲がっている(ほめ言葉よもちろん)。最後の最後でその幸せな光景に、強烈なノイズが走るのです。そのノイズはくるみにとって壱吾が家族であると同時に自分の多様な可能性を奪った加害者であるという残酷な現実を突きつけて読者を怯ませます。このコマについてはもう直接、単行本を手に取って見ていただきたいので詳しくは書きません。ただ、先述したエロアニメ見て使うあてのない汚い性器を握るだけのキモオタや表現の自由戦士らはバカだから通じないだろうけど。

 

 もうこの物語は単行本のラスト直前ページをめくらせるためだけにあったんじゃないのか?って思わせる構成にはただ唸るばかり。実際、この漫画を読んだのはもう10年以上前になるけれども、未だにこれを超えたと思える恋愛もの、ファミリーものを僕は知りません。機会があったら、読んでみて下さい。マジでこれを漫画にやられたら文学の立場がないぞ。と思う。 

 

作品はマイナーだけどこのとおり評価は高いのよ。

bookmeter.com

 

 

 


 

 

 ※これはもっと注目されて、再評価されるべき作品。復刊してもらいたいなぁ。